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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)605号 判決

控訴人

石堂正彦

右訴訟代理人弁護士

宗藤泰而

藤原精吾

豊川義明

高橋典明

出田健一

戸田勝

被控訴人

朝日火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

野口守彌

右訴訟代理人弁護士

河本毅

和田一郎

主文

一  原判決主文二項を取り消し、右部分に関する被控訴人の請求を棄却し、同三項を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人に対し、昭和六一年一〇月一二日から平成四年五月一六日まで一か月金七万三〇〇〇円の割合による金員を支払え。

二  その余の本件控訴を棄却する。

三  控訴人の当審で追加した請求を棄却する。

四  訴訟費用は、一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴の趣旨

(控訴人の請求は、一審では左記2項及び3項記載のとおりであったが、当審において、左記4項及び5項記載のとおりに交換的訴えの変更を申し立てた。)

1  原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消す。

2  控訴人が被控訴人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

3  控訴人が被控訴人に対し平成五年七月三一日に金二三七九万五六五〇円の退職金の支払を受ける権利を有することを確認する。

4  被控訴人は、控訴人に対し、金一一九六万四一三一円及びこれに対する平成五年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(交換的訴えの変更申立て分)。

5  被控訴人は、控訴人に対し、金二三七九万五六五〇円及びこれに対する平成五年八月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え(交換的訴えの変更申立て分)。

6  被控訴人の請求を棄却する。

(被控訴人は、控訴人の交換的訴えの変更の申立てに対し、従前の訴えの取下げには同意しない旨述べた。)

二  事実関係

次のとおり補正するほかは、原判決の「第二 事案の概要」及び「第三 争点についての主張」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決訂正部分

(一)  四枚目表三行目の「加入しており」を「加入していたものであり」に改め、五枚目表三行目冒頭の「鉄保就業規則」の前に「先に、」を加え、同五行目の「改定した」を「改定していたのを、退職時期を運用の実態に合わせて明確にした」に、七枚目表末行の「本件改定賃金規程」を「本件改定退職金規程」に改める。

(二)  八枚目裏五行目の「別紙物件目録」の次に「(ただし、同目録の所在欄に『大阪府堺市菩提四丁目三八番三九号』とあるのを『大阪府堺市菩提町四丁三八番三九』に、同目録中に『添付図面』とあるのを『本判決別紙図面』に改める。)」を加える。

(三)  九枚目裏一行目の「賃料相当額」から同二行目の「遅延損害金」までを「賃料相当損害金」に改め、同八行目の「あるとして」の次に「、また、すでに平成四年五月一六日に本件建物を明け渡したとして」を加える。

2  当審における交換的訴えの変更申立て

控訴人は、平成四年八月一一日に満六三歳となり、鉄保労働協約に定められた定年退職の時期(平成五年六月三〇日)が経過したことによって、交換的訴えの変更を申し立て、次のとおり主張している。

(一)  未払賃金の支払請求

(1) 昭和四〇年二月一日、被控訴人と鉄道保険部の合体に伴い締結された控訴人・被控訴人間の労働契約では、控訴人の定年は「満六三歳に達した翌年度の六月末日に退職する」と定められている。

ところが、被控訴人は、右労働契約に定年の定めはなく、本件労働協約の効力が控訴人に及び、控訴人の定年は満五七歳の誕生日であると主張し、控訴人が満五七歳に達した昭和六一年八月一一日に定年退職したものとして取扱い、同月一二日以降の給与を支払わない。

(2) 本件労働協約の効力が控訴人に及び、控訴人の定年の権利が変更されることはない。

(3) よって、控訴人は、昭和六一年八月一二日から平成五年六月三〇日までの未払給与の支払請求権を有する。その額は、本判決別表・給与明細表記載のとおり合計金三七三二万〇九〇一円を下らない。

控訴人は、神戸地裁・平成二年一月二六日仮処分異議事件判決(平成元年(モ)第一〇〇三号)等により、被控訴人から昭和六一年八月一一日から平成四年八月一一日までの間合計金二五三五万六七七〇円の支払を受けた。

そこで、前記未払給与額から仮払額を控除した残額金一一九六万四一三一円及び各月給与の弁済期の後である平成五年七月一日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  退職金の支払請求

(1) 控訴人は、定年退職により、昭和四六年一〇月一日制定の退職金規程に基づき退職時の本俸に対し七一倍を乗じた退職金請求権を有する。

控訴人の昭和六一年度の本俸(本人給と職能給の合計)は、金三三万五一五〇円であるから、退職時の本俸がこれを下回ることはないので、退職金額は三三万五一五〇円に七一倍を乗じた金二三七九万五六五〇円を下らない。

右退職金規程は、従業員の退職後一か月以内に退職金を支払うと定めている。

(2) 被控訴人は、本件労働協約により控訴人の受ける退職金は、退職時の本俸に五一倍を乗じた金額に変更されたと主張し、控訴人の請求にもかかわらず退職金を支払わない。

(3) 本件労働協約の効力が控訴人に及び、控訴人の退職金の権利が変更されることはない。

(4) よって、控訴人は、被控訴人に対し、退職金二三七九万五六五〇円及びこれに対する弁済期の後である平成五年八月一日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  争点に対する判断

次のとおり補正するほかは、原判決の「第五 争点についての判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

1  交換的訴えの変更の申立てについて

(一)  控訴人は、当審で、①労働契約上の地位存在確認請求と②退職金の支払を受ける権利を有することの確認請求を、③未払賃金の支払請求と④退職金の支払請求に交換的に変更する旨申し立てた。

(二) 被控訴人は、控訴人の右申立てに対し、従前の訴えの取下げには同意しなかったが、右②に対しては、本案の答弁に先立ち訴えを不適法として、その却下を申し立てている(予備的に本案につき棄却の申立てをしている。)ところ、このような場合、控訴人の一方的な意思によって訴訟を終了させても被控訴人の権利を侵害することはないから、控訴人は被控訴人の同意なくその訴えを取り下げることができるものと解するのが相当である。

(三)  そうすると、右②については、訴えの取下げにより訴訟係属がないことになったので、本件訴訟では、右①、③及び④について判断する。

2  原判決の補正部分

(一)  三八枚目表三行目の「また」を「その後」に、同四行目の「前記」から同五行目末尾までを「先に、前記就業規則の定年に関する部分を改定していたのを、退職時期を運用の実態に合わせて明確にした。」に改める。

(二)  五九枚目裏八行目の「満五七歳以上」を「満六〇以上」に、六二枚目表一二行目の「組会」を「組合」に、六九枚目裏一行目の「第一二号証」を「第一号証、同第一二号証」に、同二行目の「第一三」を「第一号証、同第一三」に、同三行目の「四二号証」を「四三号証」に、同一一行目の「第五九号証の一」を「第四四号証、同第五九号証の一」に改め、七〇枚目表七行目の「乙第一号証」の前に「甲第三七号証、」を加え、同八行目の「、同第四三、四四号証」と、同九、一〇行目の「、同第一三五号証」とを削る。

(三)  七二枚目裏八行目の「前掲」の前に「成立に争いのない乙第二七号証、」を加え、同八、九行目の「、同第二七号証」を削り、七四枚目表八行目の「前掲」の前に「成立に争いのない甲第四一号証、同第四四号証、乙第八四号証の二」を、同行の「第二六号証」の前に「同六号証、」を加え、同行の「、第四一号証」と、同八、九行目の「、同第四四号証」と、同一二行目の「、二」とを削る。

(四)  七八枚目裏一〇行目の「第二七号証、同」を削り、同一二行目の「第三五号証」を「第二七号証、同第三五号証」に改め、七九枚目裏九行目の「前掲」の前に「成立に争いのない甲第五一号証、乙第一〇〇号証、証人大田決の証言により真正に成立したものと認められる甲第二五証、」を加え、同一〇、一一行目の「、同第二五号証」と、同一一行目の「、同第五一号証」と、同第一二行目の「、同第一〇〇号証」とを削る。

(五)  八七枚目表四行目の「第一号証、同」を削り、同八行目の「第三五」を「第一号証、第三五」に改める。

(六)  八八枚目裏一二行目と同末行の間に次のとおり加える。

「以上により、控訴人の労働契約上の地位存在確認請求は理由がない。

当審における証拠調べの結果によっても、以上の認定、判断を左右するものではない。」

(七)  八九枚目表三行目の「義務がある」を「義務があるところ、控訴人が平成四年五月一六日に至って本件建物を明け渡したことは、被控訴人において明らかに争わないから、被控訴人の本件建物の明渡し請求は理由がない」に、同一一行目の「右建物」から同一二行目末尾までを「右建物を明け渡した平成四年五月一六日まで被控訴人に対し一か月七万三〇〇〇円の割合による損害を継続的に与えていたことになる。」に改め、更に同末行冒頭から同裏八行目末尾までを削る。

3  当審における交換的訴えの変更分について

(一)  未払賃金の支払請求

控訴人が昭和六一年八月一一日付で被控訴人を退職したことは、先に補正、引用した原判決の認定、判断のとおりであるから、控訴人の未払賃金の支払請求は理由がない。

(二)  退職金の支払請求

控訴人は、本件労働協約等の適用を否定し、昭和四六年一〇月一日制定の退職金規程に基づく退職金の支払を請求しているところ、控訴人に本件労働協約等の適用があることは先に補正、引用した原判決の認定、判断のとおりであるから、控訴人の右退職金規程に基づく退職金の支払請求は理由がない。

なお、控訴人は、新退職金制度に基づく退職金の支払請求権を有すると認められるが、本件では右制度に基づく退職金の支払請求はしていないものと解される(成立に争いのない乙第八一号証[退職金通知書]によれば、昭和六一年八月中に、被控訴人から控訴人に対し、新退職金制度に基づく退職金一七八一万円余の支給通知がされていることが認められる。)。

以上によれば、控訴人の本件請求はすべて理由がないから棄却すべきであり、また、被控訴人の本件請求中、本件建物の明渡し請求は理由がないから棄却すべきであるが、昭和六一年一〇月一二日から本件建物が明け渡された平成四年五月一六日までの間の一か月七万三〇〇〇円の割合による賃料相当の損害金請求については理由がある。

よって、右と異なる原判決を一部変更するとともに、本件控訴の一部及び控訴人の当審で追加した請求(交換的訴えの変更によるもの)をいずれも棄却することとする(なお、控訴人が退職金の支払を受ける権利を有することの確認を求める部分の訴えを却下した原判決主文一項の一部は、訴えの取下げにより当然に失効した。)。

(裁判長裁判官中川敏男 裁判官北谷健一 裁判官松本信弘)

別紙〈省略〉

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